日本人の現在の3大死因はガン、心臓病、脳卒中です。第1位ということも
あって私たちの関心はついガンにばかり向けられがちですが、実は心臓病や
脳卒中で倒れる人の数もこのところふえてきているのです。
こうした死亡原因の上位を占める心臓病や脳卒中は、主に動脈硬化が進ん
だために起こります。その動脈硬化の元凶となるのが高脂血症で、これは血
液中のコレステロールや中性脂肪が異常にふえる病気です。成人病検査で「
コレステロール値が高い」などと診断されるのは、この高脂血症の初期段階
と言っていいでしょう。逆にいえば、この段階でコレステロール値を下げる
努力をすれば、動脈硬化への進行を防げるわけです。
食物繊維には、このコレステロールの吸収を抑える働きがあり、その結果、
高脂血症を防いで動脈硬化の予防に大いに役立つことがわかってきました。
その仕組みを説明する前に、成人病の原因となるコレステロールと動脈硬
化についてもう少しお話しましょう。
日本人の食生活が欧米化した結果、動物性タンパク質と脂肪の摂取がぐんと
ふえてきました。
食生活の欧米化については、毎日の食生活の献立をふり返れば思いあたる点
が多いに違いありません。そしてさまざまなデータもはっきりとこれを裏づけ
ています。
そのlつ、厚生省の健康増進栄養課による調査結果をみてみましょう。昭和
31年に日本人1人が1日あたりにとっていたタンパク質の量は69・1g、脂質(脂
肪のこと)の量は21・8gでした。これが61年には、タンパク質が78・9g、脂質
は56・6gにまでふえています。この内訳をさらに動物性のタンパク質と脂質に
しぼってみましょう。すると、昭和31年の動物性タンパク質摂取量は22.6g、
動物性脂質は7gだったのが、61年にはそれぞれ41・1g27.9gと大幅にふえてい
ることがわかります。
こうした数字からみて、とりわけ問題なのが動物性脂質(魚貝類の脂質は除
く)のとりすぎです。というのも、動物性脂質のとりすぎは高脂血症をまねき
、ひいては動脈硬化を促進させることになりかねないからです。ではなぜ動物
性脂質を多くとると動脈硬化になるのでしょうか。
動脈は若いうちは弾力性に富み、内径も広く、血液もスムーズに流れます。
しかし年をとるにしたがって弾力を失い、その内壁には脂質が沈着するように
なります。すると当然、血管の内径が狭くなるので、脂質はますます沈着しや
すくなります。たとえて言うなら、水道や下水の管が何十年と使っているうち
に、水アカがたまり、通りが悪くなるのと同じです。これが動脈硬化で、じゆ
くじょうはんこの脂質の沈着を「粥状斑」(じゅくじょうはん)とか「アテロ
ーム」と呼んでいます。
アテローム硬化を促す要因にはいろいろなものがありますが、最も重要なも
のが、実は血液中のコレステロールの増加なのです。
脂質の一種であるコレステロールは食物からも体内にとり入れられますが、
大部分は私たちの肝臓で作られています。食物からコレステロールをたくさん
摂取したときには、肝臓でのコレステロール合成が減り、反対に少ししか摂取
しないときには増加するというように、体内でコントロールされているのです
。つまり、血液中のコレスチアル値は、肝臓でり合成に大きく左右されている
わけです。
そして、コレステロールを作るときの原料になっているのが脂質と糖質で、と
りわけ食物として摂取する脂質の量が重要なのです。
ところで脂質の一種であるこのコレステロールは、私たちの体の細胞膜を作る成
分であるほか、副腎皮質ホルモンや性ホルモン、また胆汁酸などの合成材料とし
てもたいへんたいせつな物質です。そのため・血液は各組織へこれを休みなく送
りつづけています。しかし、脂質であるこのコレステロールは水に溶けないため、
そのままでは血液中に存在できません。そこでコレステロールをタンパク質で包
み、リポタンパクというかたちで血液中に存在させています。
そして、タンパク質とコレステロールの割合によって、次のような2種類に
区別しています。
脂質(コレステロール)が少なくタンパク質の多いものほど比重が重くなる
ので、これを高比重リボタンバク(HDL)と呼びます。一方、脂質が多くタン
パク質が少ない比重の軽いものを、低比重リポタンパク(LDL)と呼んでいま
す。そして、それぞれの中に入っているコレステロールをHDLコレステロール、
LDLコレステロールと呼んでいるのです。
最近になって、LDLのコレステロールは血管壁などの組織にたまりやすく
、HDLは逆に組織にたまったコレステロールを運び出す働きをしていること
がわかりました。そこで、肋脈硬化を促進させるLDLを「悪玉コレステロー
ル」、逆に動脈硬化を防止するHDLを「善玉コレステロール」と呼んでいま
す。食物としてとり入れられる脂質のうち、概して植物性脂質と魚貝類の
脂質は悪玉コレステロールを減らし、善書レステロールをふやします。そ
れに対して畜肉などに含まれる動物性脂質は悪玉コレステロールをふやす
ことが、いろいろな研究によって突き止められています。
以上で動脈硬化とはどういうものなのか、またそれを進行させるコレステロ
ールとの関係についても、あらましおわかりいただけたと思います。ではいよ
いよ、そうしたコレステロールを抑える食物繊維の働きについて、本題に入っ
ていくことにしましょう。
食物繊維をたくさんとっている、菜食主義者や南アフリカのパンツー族、そ
してかつての日本人は、高脂肪食をとっている欧米人にくらべて血液中のコレ
ステロール値が低いことはかなり以前から知られていました。この事突を最初
に指摘したのは、アメリカのキースという学者です。彼の実験によって、食物
繊維の一つであるペクチンに、コレステロールを低下させる働きがあることが
確認されました。
その後も各方面で研究や実験が進められ、食物繊維の働きはより明確に、そ
してより確実なものとなってきたのです。私どもの実験でも、ペクチンのほか
に、同じような働きをする食物繊維がいくつかあることが確認できました。
シロネズミを使った実験で、コレステロール1%と胆汁酸塩0.25%を合わせ
加えたエサ、にさまざまな食物繊維を各5%ずつ加え、これを数日間与え、血
清と肝臓のコレステロール値を測定したのです。
その結果、特にコレステロール低下作用が高かった食物繊維はコンニャクマ
ンナン、グアーガム、アルギン酸ナトリウムなど、水溶性のものでした。
また、善玉コレステロールと悪玉コレステロール値の変化についても、いろ
いろな食物繊維を依って調べてみょした。すると善玉コレステロールの減少を
抑制する効果も、水溶性繊維のほうが高かったのです。
ではなぜ、水溶性繊維にこのような働きがあるのでしょうか。その前に、コ
レステロールと深く関係する胆汁酸の腸肝循環について説明しておきましょう
。 胆汁酸というのは、コレステロールを原料にして肝臓で作られる、脂肪を
溶かすための消化液です。胆汁酸は常に肝臓、小腸、胆嚢の中に一定量が蓄え
られており、脂肪を消化、吸収するときに十二指腸に分泌されます。そしてそ
の役目が終わると胆汁酸は再吸収され、再び肝臓に送り込まれます。以上を胆
汁酸の腸肝循環といいます。
この胆汁酸が分泌されたときに腸内に食物繊維があると、食物繊維が胆汁酸を
吸着します。
そしてそのまま便とともに体外に排出してしまうのです。胆汁酸は常に一定量
を蓄えておく必要があるので、食物繊維に奪われた分を再生産しなければなりま
せん。このとき、主な原料として使われるのが、肝臓や血液中のコレステロール
です。というわけで当然、血液中のコレステロールが減ることになるのです。
さらに食物繊維には、食物に含まれているコレステロールそのものをも体外に排
出する働きがあります。
さてでは、なぜ水溶性繊維のほうがこの働きが強いのでしょう。それは水溶性
繊維の独特な性質と関係します。というのも水溶性繊維は、体内に入ると小腸内
で水分を吸収し、ゼリー状になるからです。実は、このゼリーの中に胆汁酸やコ
レステロールを閉じ込めてしまうのです。
一方、不溶性繊維にはゼリー化する性質がないため、コレステロールを吸着
する力が非常に弱いとされています。
以上、食物繊維とりわけ水溶性繊維には、血液中のコレステロールの上昇を
防ぐ働きがあることをお話ししてきました。
よく動脈硬化は、走り出したら止まらない列車にたとえられます。その速度
を落とすためには、まず高脂血症を起こすような魚介類以外の動物性脂肪のと
りすぎに注意すること。そして食物繊維など、コレステロールの上昇を防ぐ成
分を含んだ食品をうまく組み合わせることが賢明な方法といえます。そしてこ
れは、冒頭にふれた心臓病や脳卒中など、危険な成人病を予防することにもつ
ながるのです。
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代表 橋本 甫邦
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